2020.03.17

スタイリストブログ

Ricordo Remoto

 

留学時代に初めて住んだお家には大きな庭があった

私の部屋には大きな扉の窓がついていて

その向こうにはお花そして沢山の野菜や果物が栽培されていた

 

二階には大家でもあるイタリア人の老夫婦が住んでいた

男性は朝から庭に植えている植物達のお世話をしていた

エプロン姿の男性アントニオはフサフサの真っ白な髪に

日本のTVでよく見たイタリア人特有の鼻を持っていた

 

『Buongiorno! Signorina,  Ha dormito bene?』

~おはようシニョリーナよく眠れたかい?~と声を掛けてくれる

私は覚えたてのイタリア語で 『Si, ho dormito molto bene』

~はい とってもよく眠れたわ~と返事をするのが毎朝楽しみだった

 

夏の暑い日の朝アントニオは両手に真っ赤なトマト抱えて

私の部屋に持ってきてくれた

 

そのトマトはスーパーで売られているそれとは違い

形も色々で尖がっていたりくねっていたり

まだ土の香りがして驚くほど甘く

まるで果物をたべているかのようだった

愛情を込めて育てられた赤い実を私は毎回有難く頂いた

 

庭で栽培される野菜は山ほどあり、夫婦二人では消費できないのか

アントニオは頻繁に私にトマトを持ち込んでくれた

ある日の朝トマトに添えられていたのはバジリコだった

私はそのバジリコに鼻を近づけて大きく深呼吸した

自然の香りがこんなにも幸せな気分にさせてくれる

そんな大切なことをこの夫婦は私に教えてくれた

 

そのトマトで作ったソース、最後に添えるバジリコは

魔法のように私のスパゲッティを豪華にしてくれた

 

そうあれはもう22年前のこと

遠い遠い記憶は時に忘れてしまったように感じるが

蘇るあの思い出は五感に心の片隅に強く残っている

 

形の悪い愛嬌のあるトマトを手にすると今でも

彼らのあのアパートの庭を思い出す

遠い記憶は輝き続ける濃淡の色を出しながら…

 

 

Ricordo Remoto(リコルド レモート)
【 遠い記憶 】
〜 部屋の片隅に落ちていたのは
           遠い日のひとつの記憶 〜